Kitchen Man

Valerie Wellington


2004-08-23 MON.


一言で New Orleans のディキシーランド・ジャズと言っても、その道の(?)のマニアからすればイロイロ違いがあって細分化されるのかもしれませんが、ワタクシの「安易」なイメージからするってえと、Bonnie Raitt の Give It Up に収録されてるYou Got to Know Her なんてのが、モロその延長線上にあるよな気がいたしております。
で、その特徴は、あのブラスにあるのかもしれません。

ブラスと来れば連想しちゃうのがダーテイ・ダズンですが(あ、日本でも、それに良く似たバンドあるみたいですねえ。なんかの TV 番組で見たことあった⋯)、その演奏を収録(一曲だけだけど)したヴィデオを見たら、やはり、基本はマーチングにあるみたいで、ワタシとしちゃあ(その一曲だけでの印象ですから、「誤解だ!」っちゅうツッコミも入れられるかもしれませんが)演奏自体にはさほどの感銘は受けなかったんですよ。
もちろん、New Orleans の街角で彼らが演奏しつつやってくるのに出逢ったらメチャメチャ感動しそうですが、かといって多少歩き廻れるとはいえ、ライヴハウスやクラブで彼らが演奏すんのをジっと座って聴いてたら(つまり、ヴィデオを見た、ってのはそんな状態に近いんですね)、もーしわけ無いけど「飽きちゃう」。
演奏の各個人のスキルも申し分ないし、アンサンブルも見事。アレンジも良く練れてます。
でもね、何か「足りない」んですよ。
それが何か?と言うと、やはり「本当に目の前を通過して行くこと」じゃないでしょか?

風の盆、というのをご存知でしょ?
あの明け方まで街中を踊り流してゆく、ある種の組み踊りでもあるのですが、それを広間でお客さんのためにお見せしている旅館があって、足の不自由な方や、お歳を召して、遅くまで起きていられない方などに喜ばれているようですが、やはり「通過」という決定的な要素が欠落しているのは否定できません。
たとえば弘前のねぶたでも、路傍の観客の前を次々と異なる運行団体のパッケージが山車を引いて通り過ぎてゆくのですが、山車ごとに演出があって、それを時々お披露目するタイミングは各自バラバラですから、それを間近に見られた観客もいれば、え~、そんなのやってたの?知らなかった!なんてひともいるワケ。

同じことは阿波踊りでも言えるんじゃないでしょか。通り過ぎてゆくもの、のみが持ち得る「華」と、それが遠ざかってゆくときの愛惜のココロ。リオのカーニヴァルだって、いつかは最後の組が通り過ぎて行くんですから・・・

それって人生にも似てますよね。
自分、という主役から見れば、バックとなる時代背景も、その時ドコにいたか?っていう空間のモンダイも、また周囲の人たちの人生の山と谷の配分も、まさに One and Only、全ては「通過していくもの」。
そこで、ダーテイ・ダズンの演奏も、あれが目の前を通り過ぎて行くものだったら、もの凄~い感動!だと思うのです。
そのように、「通過していくもの」の必然として、ある種の反復が多くなる演奏を、一ヶ所に閉じ込めて延々と聴いちゃったから「飽き」てきたんじゃないでしょか?
てなとこで脱線してちゃあ、ハナシが前に進みませんねえ。

さて、前述の Bonnie Raitt の You Got to Know Her を聴いたことがある方ならご存知の通り、あのブラス・セクションのアレンジメントって、いわゆるイメージ上の「ニューオーリンズっぽい」ってヤツですよね。
この Valerie Wellington の Kitchen Man も、その基本となるリズムとしてはいささかユルい 4 ビート系ながら、ヴォーカルのメロディー・ラインのディキシーっぽい動きなどから、もしこれがボニー・レイットだったら、マチガイ無くもっとブラスをふんだんに突っ込んでドガチャカとメッチャ陽気に仕立てるだろな、きっと⋯っちゅう気がいたします。

しかるに、この Valerie ちゃんでは、あえてホーンを多用せず、基本は Rico McFarland によるらしい(あ、クレジットでは、そこらナニも触れておりませんので、これ、ワタクシの「そんな気がする」ってえだけの薄弱なコンキョしかございません。違ってたら江戸ちゃんからツッコミをいただけるハズ)クレヴァーなコード・ワークを見せるギターを通奏和音に、それに絡む Fred Rakstraw のピアノ、ミュートを早くしてスタッカート気味にチューバあるいはスーザホーンみたいな低音を繰り出す奏法も織り混ぜつつ弾いてるベースの Nick Charles、軽快なブラッシュ・ワークをキープする Brady Williams のドラムをメインに、そこに時折、控え目にブラスが登場するってえアレンジメントは「逆に」新鮮ですよね。

また、このアレンジだからこそ、Valerie のヴォーカルも活きてる、ってとこもあるのかも。
勢いにまかせて「お祭り」ムードで料理しちゃお、と思えば出来る曲ですが、それをジックリと聴かせるクォリテイに持って行ったあたり、なかなかやることが憎いなあ。

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